• 最近は森崎東特集で「生きてるうちが花なのよ」「生まれ変わった為五郎」「女は男のふるさとヨ」「特出しヒモ天国」「黒木太郎の愛と冒険」(以上再見)「ロケーション」。森崎監督と緑魔子さんのトークショウにも行く。緑魔子さんは可憐な感じだった。思ったよりも小柄。「生きてるうちが」の男女のただならぬ濃密な気配と、銃を持った賠償美津子。「為五郎」の殺伐とした臨海工業地帯を行く緑魔子!銃を見つけようとドレス姿で懸命に土に鍬をたてる緑魔子!サウナのシーンではTV画面が安保闘争(?)のニュース画面だったのか。「女は男のふるさとヨ」での緑魔子は泣き顔→片目整形という素晴らしさ。改造バンのフロントガラスに雨があたって、放送を終えたNHKの「君が代」が流れるところ(小さい頃、このNHKの「君が代」はとても恐ろしくてもの悲しかった)が最高にすばらしい。この「君が代」は「黒木太郎」でも反復。「特出し」は誰もがそうだと思うけれど本当にすばらしいと感動せずにおれない映画。殿山泰治の説法がサウンドトラックという意味でも絶妙で、そして何よりも芹明香様。葬式(?)で踊る場面ではやはり号泣するし、最後に護送車の金網ごしにじっと前を見つめるアップは鳥肌が立つ。「黒の舟歌」の合唱にも。「砲兵の歌」もそうだけれど、森崎東の音/歌の使い方は印象的だ。男優では「為五郎」と「黒木太郎」の財津一郎にうっとり。「ロケーション」は後半の怒濤の展開になんじゃこりゃと度肝を抜かれました。
  • 東急ミラノで「アンダーカヴァー」。80年代NYが舞台のはずなのだけれど、雨の中の視界がぼやけたカーチェイスの場面や、マフィアを追い込むシーンでの葦が生えた茫漠とした場所(徐々に煙が回っていく)といい、どこでもない感じ。兄弟もの(プラス父親)で、警察もので、いくらでも痛くて重厚な話にできるだろうに(もちろん、そうではあるのだけど)、ホアキン・フェニックスの呆けたような表情とあいまって非常に動揺させる映画だった。ガタイがいいという言葉では表現しきれないホアキンの身体の存在感もなんだ凄かった。
  • ユーロで「チェチェンへ アレクサンドラの旅」。冒頭で軍用列車が出発する場面から引き込まれる。装甲車の姿や細部、銃の細部、軍隊靴、迷彩色の軍服、認識票、階級章、傷のある兵士の足、そういったものが(時にディテールまで繊細に)映っているだけで、そして、ヘリコプターの音やアレクサンドラが引き金を引く音(“発砲”があるのはここだけ?)以外には爆音も砲撃の音もないのに、戦争の気配に満ちている。そして、何よりも駐屯地の兵士たちの肉体と表情がよくて、彼らのあいだを歩くアレクサンドラはそこに存在するようで存在しない。食事の場面でテーブルに添えられる花(空き瓶に挿された花)や地元の女性の半分破壊されたようなアパートの一室で出されるお茶など、戦争と軍隊の意味をまとった前述のモノと対比をなしていて、しかも過剰で安易な感情を誘発することがない。